大瀧啓裕

Epikt2008-02-18

●ディックの『ヴァリス』『聖なる侵入』『ティモシー・アーチャーの転生』を訳しているのは大瀧啓裕です。博学がディックを狂わせている以上、誠実な翻訳者であろうとするならば翻訳者も狂うしかなく、『ヴァリス』には71ページにわたる備忘録がついています(本編は365ページ)。これはヴァリスのキーワード解説みたいなもので、

アスクレピオス ギリシア神話におけるアポロの子であり、医術の神とされる。ソクラテスの最後の言葉は「クリトンよ、わたしはアスクレピオスに雄鶏を一羽もらっている。忘れずにその借りを返してくれ」だったという。雄鶏は密儀参入者が最初に備える犠牲である。

というような重要箇所ごとの解説が続きます。内容もジギタリス、バチュ治療、ゾロアスター教の二元論、魔術師シモン、ドゴン族など、逆にこっちだけ見て本編がどんな小説か当てるのは無理なんじゃないかというくらい多岐にわたっています。英語どころかもっと広範囲な言語学の知識も必要だったでしょう。解説の意味でつけられた備忘録でコレですから、実際に調べた量は膨大なんでしょうね。

●で、大瀧啓裕といえばもう1つ、クトゥルー神話です。青心社の『クトゥルー』シリーズも創元推理文庫の『ラヴクラフト全集』も大瀧啓裕なんですね。シリーズだけでなく、単行本なんかも訳されているはずです。そういえば『クトゥルー』の1巻にも神々の一覧と簡単な解説が載ってたっけ。

●『クトゥルー』シリーズの巻末では、訳者解説として雑誌掲載時の挿絵の紹介やグッズの紹介をしてました。新しい方の巻の解説で(手元にないので確認できません)、クトゥルーの映像作品を個別に紹介してたんですが、これが厳しかったですね。原作の雰囲気が台無し、みたいな評が混じってておかしかったです。怒ってるように感じました。自分の扱った作品に強い思い入れを持たれる方なんでしょうか。

●これだけ知識のある人なら自分でも何か書いてそうだと思ったら、エヴァンゲリオンの分析本がありました(笑) 聖書とか神秘学方面からの関連ですよね、きっと。またその分析が他から批判されてるんだな(笑) なんというか、あまりに当然の流れに笑ってしまいました。エヴァ全盛期ってそういう時代でしたね。