霊玉伝

●ヒョルトに娼婦の神がいないのは、あまりにも娼婦の数が少ないからではないか、とも思いました。いるとしても街ごとで、それでもそんなにいらないでしょうし。で、娼妓の神で連想するものがあったので、また脱線します。もうグローランサの話ですらない。

●ハヤカワのファンタジー文庫に「鳥姫伝」「霊玉伝」「八妖伝」の3連作があります。著者のバリー・ヒューガートは「鳥姫伝」で世界幻想文学大賞をとっています。俺はこのシリーズをセプタングエースさんに紹介してもらいました。内容はまさにファンタジー小説としか言いようがありません。舞台はいちおう唐時代の中国になっていますが、もっとはちゃめちゃです。別の時代の偉人もごちゃ混ぜで登場します。主役は百姓の息子で力自慢の十牛と、かつての天才李高老師です。

●真ん中の「霊玉伝」に妓女の組合が出てきます。脇役というか背景としてですが。妓女の集団は朝廷も認めており、その長は官職です。

中国広しといえど妓官長にかなう女性はなく、皇后在位を別にすれば、女性最高の官位を誇っていた。その傘下の組合は心と魂を意のままにあやつる術にたけ、理解しがたい夷狄どもの心すらとろかすつとめを全面的に委ねられていた。

●その妓官長は、「すらりとした中年のたまげるような美人で、声ときたら妙なる音楽を聞くよう」なんですが、一流の政治家でもあり、妓女の支配は全国の妓楼に及び、妓女は朝廷の隠密や密偵を兼ねています。役人が任務先で妓女相手に口をすべらせると、えらいことになるわけです。同時に宮廷での勢力争い(例えば宦官たちを相手とした)もこなしています。

●それで、その妓官長がかかえている問題ですが(その解決を李老師と取り引きの材料にします)、

「あたくしどもの組合は後任の守り神が決まる兆候もないまま、もう二千年もたちますのよ。」「正式に妓女の新たな守護女神を天に請うよう、皇帝に陳情してほしいのです」

●それまでの妓女たちの守護女神は潘金蓮wikiってください)でしたが、彼女が役を解かれ後任に頼りない神が来てから、妓女たちには幸運に恵まれなくなりました。道教の神界は官僚制ですから、陳情を行って新しい守護女神の任命を請うわけです。求められる資質は、

「あたくしどもの守護女神は粘り強く、抜け目なく、目はしがきいて、血も涙もなく、みみず並みの道徳観念しか持たずにすんでいる、そうした者でなくてはつとまりません。」

●というわけで妓官長は則天武后の名前を挙げるのですが、李老師は難色を示します。結局、誰になるのかは読んでいただければわかります。ちゃんと解決します。

「あなたさまは天界の要職に、自分の姉妹や姪や息子さえ毒殺した暴君を推せとおっしゃる?」と李老師が声を張りあげた。「ひとりの息子には首をくくって自害するよう仕向け、三人の男孫と女孫のひとりは鞭打って死なせ、継息子ふたりを処刑してその婿十六人の首をはねさせ、大臣三十六人すべてを絞め殺し、三千の家を一族皆殺しにした人間ですぞ。かてて加えて中国史上でもまれにみる切れ者で、有能な統治者で、あまりにもやすやすと王位を手に入れたので敵どもは何が起きたか理解できなかったほどです。太上玉皇天尊が則天武后を受け入れる勅命を下すときがあれば、時を同じくしてわしも禁酒主義者の守り神にされますよ」

 

鳥姫伝 (ハヤカワ文庫FT)

鳥姫伝 (ハヤカワ文庫FT)

霊玉伝 (ハヤカワ文庫FT)

霊玉伝 (ハヤカワ文庫FT)

八妖伝 (ハヤカワ文庫FT)

八妖伝 (ハヤカワ文庫FT)