隠れていた宇宙

●数学というものとの出会いは覚えてないが、たぶん数を数えよう、ということだったと思う。誰に教えられたかもわからない。義務教育に入ると足し算、引き算、掛け算、割り算を覚えて、数も分数だの小数だのと増えていった。数学は使うものと思っていたのだが、数学の方から「円周の長さをその円の直径で割っても割り切れないのですよ」などと言ってくることがあった。そんなことしてくれと頼んだ覚えがなかったのだが、数学の方ではもう何千年と計算してるのだという。「見慣れない顔だがあいつはなんだ?」「虚数でさぁ。二乗すると負の数になります」ということもあった。
 
●数学についていけなくなったのは、なぜかはっきり言えるのだが、積分だった。微分まではわかった。数列やら確率もダメだった。確率も直感的にわかる範囲ならいいのだけど、式をいじってどうこうという段になるとわからなかった。数学はつねに公正だったが私の頭がついていけなくなって、その辺が数学との別れだった。だから受験は数学の点の比率が低い学校を選んだ。
 
●しかし数学が今何をしてるか覗いてみることがある。「宇宙は無限にたくさんあるかもしれません」とか「猫が死んだ/死んでない以外はまったく同じ宇宙に分裂する」とか「宇宙はホログラムだと考えると上手く収まることがあります」などとやつは言うのである。
 
●「隠れていた宇宙」は数学の本ではなくて、多宇宙の話を中心に、宇宙とは何かどこまでどのようにわかっているか、を述べた宇宙論の本。文庫で見つけたので買った。私は宇宙の話を聞くのが好きだ。肝心の理屈の部分をまったく理解できないので(私は飛行機から投げ落とされる鳥かごの中の鳥の体重がどうなるかわからなかったので物理の授業も断念した人間だ)、変なイメージだけが残ることになるのだが。
 
●原題は“THE HIEEDN REALITY: Parallel Universes and the Deep Laws of the Cosmos" であって、隠れていた現実というか宇宙像というか、日本語の題の方は言葉足らずかもしれない。研究の結果わかった宇宙像は生物としての人間がもってる直感的な宇宙像とはちがってる、という話なので。もっと現実を見ろよ、と言われたときに(「リアルって量子がワープするリアルのことか?」)と腹の中で言い返してみるのもよかろう。
 
 

隠れていた宇宙 上 (ハヤカワ文庫 NF)

隠れていた宇宙 上 (ハヤカワ文庫 NF)

 
 
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