大江戸怪奇譚ひとつ灯せ

●著者は宇江佐真理。盆休み最後の日ということで、鬱々とした気分で読み始めたのですが、そういう雑念を忘れるほど夢中で読めました。帯には百物語と書いてありますが、個別の怪談を続けて語る形ではなく、主人公清兵衛を中心とした日常の物語です。しかしその日常は此岸と彼岸が切れ目なくつながってできています。

●清兵衛は53になるまで忙しい人生を送ってきたのですが、病を経験したことでそれまで考えたことがなかった自分の死を意識し、恐れるようになります。彼の悩みを聞いた友人の甚助は清兵衛を「話の会」に誘いました。話の会とは怪談や不思議な事件、理屈のつけられぬことを話す会でした。

●死は怖いか、と聞かれると怖いと答えるしかありません。清兵衛は老いるまでそれに気づきませんでしたが、俺は子供のころから怖かったです。甚助は清兵衛を誘うときに「これから少し、無駄なことをしないか」と言います。俺は昔から無駄なことをたくさん必要としました。この導入に共感したので、話に入り込むことができました。

宇江佐真理は俺が言うのも生意気ですが、ベテランなのに素人っぽい雰囲気があります。時代小説のお決まりのパターンにはまりません。ときどき考えてもない方向に行ってしまいます。この小説もそうでした。型破りな百物語だと思います。

●俺が一番怖かったのは最初の方の地蔵の話でしたよ。
 

大江戸怪奇譚 ひとつ灯せ (文春文庫)

大江戸怪奇譚 ひとつ灯せ (文春文庫)