ヒョルト人のカルト:ユールマルその2

Epikt2008-05-02

ただし、ほぼ完全な幸福がしばしば髪ぼうぼうの道化に似たものであり、すくなくとも少々の狂気と、多少の髑髏の影をおびていることを理解した上でだ。
 
「豊穣世界」より R・A・ラファティ著 『つぎの岩につづく』収録

いつかかっこいい引用から入ってみたいと思ってました。

●ユールマルの力の本質は、力を上手く働かせないということのようです。起こるはずのことが起こらない、起こらないはずのことが起こる。この力は善悪や敵味方を選ばず、ユールマル自身に対しても働きます。例えば死もそうです。ユールマルは死の力を支配しているわけではありませんが、死に支配されてもいません。グローランサでは死も力の1つであり、意外に強いユールマルの無秩序に対してはまともに働かないことの方が多いようです。ユールマルは何も恐れる必要がなく、あらゆるものが彼にとってはおもちゃみたいなものかもしれません。

●定められた役割を果たしているトリックスターはヒョルト人社会でも許容されると書きました。それではどんな役割があるのか。なお、あげられていたのはある程度有名な例で、実際にはもっといろんなのがいるそうです。なにせ無秩序なので。

  • 死の目、死を見つけるもの(Deadeye, Death-Finder)
    • ユールマルは死の第一発見者で、世界に死を持ち込んだ存在です。神話ではユールマルは死の力でオーランスを脅かしたことがあり、そのときオーランスはユールマルを引き千切って世界中にばらまきました。ユールマルの破片が落ちた場所は死の力と呪いを帯びました。普通の人間がその場所に入ると呪いを受けてしまうのですが、ユールマルやフマクトの信者の場合、見たものを呪う邪眼(Evileye)や、見たものを殺す死の目(Deadeye)を得ることがあります。この力を帯びたトリックスターは大変危険なので隔離されます。
  • ダウンボーイ、光持ち帰りし者(Downboy, Lightbringer)
    • このダウンとボーイをどう訳していいのかわかりませんでした。座った男では普通すぎるか。光持ち帰りし者たちの探索に出向く前に、オーランスから「ここに座れ、」と言われたユールマルを指します。それまでユールマルは怯えていましたが、座ると彼の混乱と不安は鎮まりました。ダウンボーイを祭った聖地ではユールマルの魔術は消え、トリックスターも普通の人間になります。ユールマルの光持ち帰りし者としての側面で、もっとも広く知られています。なお「二つ谷(two vales)」と呼ばれる土地が、そのときユールマルの尻がつけたくぼみとされています。
  • 彼の落ち度、身代わり(Hisfault, Scapegoat)
    • 共同体の失敗、過ち、不幸、ふりかかった神の怒りなどを全部ユールマルに押し付ける儀式、というかお祭りです。それらのものを魔法の袋に詰める儀式を行い、その袋をトリックスターに持たせ、みんなで彼の名前を叫びながら棒で叩いてステッド(集落)から追い出します。日本にもそういう祭りはありそうです。このようにユールマルを役立たせる方法を思いついたのは、もちろんアーナールダです。
  • キラー・ボーイ、破壊するもの(Killer Boy, Destroyer)
    • これは共同体の怒りや憎悪の力をトリックスターに集め、破壊兵器として送り出す儀式です。神話では、キラー・ボーイは1つの街を住人ごと破壊したことになっています。檻に入れたトリックスターに魔法の力を集め、彼の頼りない頭に狙うべき標的を叩き込むというヒョルト人にしては陰惨なやり方です。儀式に失敗すると檻から出したとたんに暴れ始めるので、共同体にとっても危険です。さらにトリックスターが任務を果たして帰って来てしまった場合も、難儀なことになるらしいです。